村上春樹氏と柴田元幸氏の『翻訳夜話』を読んだ。
村上春樹氏の小説を一冊も読んだことがない。村上氏は結構翻訳もされているらしいが翻訳書も一冊も読んだことがない。
一方、有名な翻訳者である柴田元幸氏の翻訳書もほとんど読んだことがなく、一冊目を読みかけて中断している。
そういう状況なので、この本は良さそうな本だと思ってはいたが後回しになっていた。
内容
中身は主に小説の翻訳に関するワークショップやフォーラムでの質疑応答が中心となっている。
本は、4つのパートに分かれている。
・東大教養学部の翻訳ワークショップ
・翻訳学校でのフォーラム
・村上氏、柴田氏のそれぞれ同じカーヴァー、オースターの作品の翻訳
・若手翻訳者とのフォーラム
最初の2つのパートでは、参加者の質問に対して、村上氏と柴田氏が答えながら、
翻訳について語っている。
3番目のパートは、2人の作家の短編を村上氏、柴田氏がそれぞれ翻訳したものが掲載されている。
最後のパートは、先の3つのパートを踏まえての翻訳者のフォーラムでのやりとりが書かれている。
感想
即効性のあるやり方やノウハウが書かれていて役立つというタイプの本があるが、この本はそういう本ではない。もっと大きな方向性とか考え方がわかる本になっていると思った。そういう意味で自分はこの本を読んで非常に良かった。
海外小説の翻訳について語られているので、何人か海外の作者の名前が上がっていたが、1人も読んだことがなかった。でも、あまり知らなかった小説の翻訳について考え方などいろいろ知ることができ、世界観が広がった。
両氏の翻訳についての同じではない考えをもとに質疑応答など進む。自分はそういう構成は良いと思った。というのは、同じものを違う角度から見ている人たちの話を聞くことにより、その対象のものが立体的に見えてきて理解しやいと思うからである。
いろんな質問を受けて、村上氏、柴田氏が回答、説明している内容はいろいろ参考になる。その中で、印象に残ったことは村上氏が学ぶことがあるから翻訳しているとのこと。
翻訳というのは言い換えれば「最も効率の悪い読書」のことです。でも実際に手を動かしてテキストを置き換えていくことによって、自分の中に染みこんでいくことはすごくあると思うんです。
あと、村上氏のこのコメントも印象に残った。小説を書いてる方が儲かるらしい。
正直言いまして、翻訳は苦労は多いけどそんなにお金にはならない(笑)。
まとめ
文芸翻訳に興味がある人は、読んでおいて損のない本だと思う。
余談
『翻訳とは何か』(山岡洋一著)に、原書と訳書を読めばプロの翻訳を勉強できる、というのが書いてあり、それを読んでまさにその通りだと思った。それで、原書と訳書のセットを少し買いそろえた。
そのうちの1つが、『Nine stories』(サリンジャー著)と『ナイン・ストーリーズ』(サリンジャー著、柴田元幸訳)であった。
ということで、柴田氏の訳は少しだけ読んだことがある。
9個のストーリーが入った本で、原書を先に読んで翻訳を読むということをやっていたが、3, 4話読んでみたところで中断している。英語が難しいのと、その難しい英語が見事に翻訳されているのに圧倒されてしまったため。また、(コンディションが整ったら)いずれ読むのを再開したいと思っている。
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